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著者が32歳にして世に問うた地理学書。初版本の奥付けは、明治36年(1903年)10月12日印刷、15日発行。
日常の生活、社会現象全般の考察のためには地理の究明を離れてはありえないと、著者が最新の知識、斬新な発想に基づいてこつこつと書きためた2000ページ分の膨大な草稿--。
北海道から上京して間もない牧口青年の学問へのひたぶるな情熱に感動した、当時の地理学の権威・志賀重昂(しげたか)は、一面識もなかった無名の青年の願いを受け入れ、半年に及ぶ校閲と批評を加え、ついに本書を世に出した。
彼は、大いなる期待を序に記した。「予は此の書の著者と此の書肆(しょし)とが将来必ず大成すべきことを予想するものなり」。
出版されるや大反響を呼び、明治41年に訂正増補8版、大正3年には11版を印刷するロングセラーとなった。
本書は日本の地理学研究の方向に画期的な変化を与えた。当時の地理学の傾向は、単に地理的事実を認識し記録し知識として貯蔵するという、無味乾燥な方法によるものであった。著者は、地理学が重要な学科であるにもかかわらず不当に軽視されている現状を嘆き、その打開のための研究を志し、授業のかたわら書きためたものが一書を成すに至ったと、その序言に述べている。
本書の特徴は、人間生活と地理との関係を観察して、そこに因果の法則を見いだそうとした点にある。たとえば、石狩川がどのくらいの長さがあるかということを知るよりも、この大河の有する各要素の人生に及ぼす特殊の影響を分解し観察することのほうが地理学の肝要としている。
本書の例言に「吾人の四周を囲繞せる自然は絶えず吾人の物質的、精神的、諸般の生活に影響す。されば吾人若し精細に其各要素と吾人の生活との関係を観察せば、之に依り所謂『地誌』に記載する各地各国の状況を了解するの基礎は得らるべし。果して然らば之れ即ち地理学の通論たるべきものにして、之に対すれば地理学の各論と名づけ得べき各地、各国の地理は其原則を適用するによりて粗ぼ解釈せらるべきなり」とある。
社会学者・田辺寿利が牧口の著作「創価教育学体系」第1巻に寄せた序文の中で「外国に於いて『社会地理学』なる標題を冠して初めて公にされたものは、フランスの社会学叢書の一部たるヴァロの二書であるが、その前半(海洋の巻)は一九〇八年すなはち明治四十二年、後半(土地及び国家の巻)は一九一一年すなはち大正元年の出版であることを思へば、一九〇三年すなはち明治三十六年に於いて、社会学的著述として『社会地理学』なる名の下に著書を公にせんとしたる牧口氏の識見の非凡なるに、一驚を喫するのである」とたたえている。
このように、人生地理学は単に地理学書としても日本の地理学史にその名をとどめるべき価値があるが、牧口学説の中核「価値論」の前駆としてみるときに、一層深い意義がある。なぜなら、価値論は評価主体と客体との関係の概念を体系化するものであり、人生地理学とは人間生活と地理的事象の関係性を観察する学問だからである。
【目次】
第二十五章 国家地論/一 国家の職能/二 国家の目的/三 国家の富強/四 国家の種類/五 国境/六 植民地
第二十六章 都会および村落地論/一 村落の形状と地/二 都会の意義/三 都会の起原/四 都会の発達地/五 都府の吸引力および盛衰/六 都府の種類およびそれらの内部的観察/七 都会と田舎/八 都会の膨脹と社会
第二十七章 人情風俗地論/一 気風と地/二 風俗と地
第二十八章 生存競争地論/一 生存競争単位の変遷/二 生存競争形式の変遷/三 生存競争の地的影響/四 生存競争程度と地
第二十九章 文明地論/一 現今文明の中心点/二 文明の中心点の移動/三 将来の文明中心点第四編 地理学総論
第三十章 地理学の概念/一 吾人が概念に達せし経路/二 人生地理学の内容と一般地理学の内容/三 人生地理学の定義/四 地理学は科学なりや/五 人生地理学の対象および範囲/六 人生地理学の内容
第三十一章 地理学の発達/一 発達史の二方面/二 科学の進化と名実の変化/三 日本における地理学の発達/四 欧洲における地理学の発達
第三十二章 地理学の名称ならびに人生地理学の科学的位置を論ず/一 現在における系統上の智識/二 人生地理学の据わるべき位置/三 地理学の名称/四 人生地理学の名称
第三十三章 地理学の研究法/一 従来の記載的地理学の弊害/二 科学研究法発達の経路/三 地理学研究法の進歩/四 地理学の研究法 第三十四章 地理学の効果および必要